Device Physics

電車やEV(電気自動車)などに用いられるインバータには、従来はSiパワーデバイスが用いられてきましたが、近年、SiCを用いた低損失パワーデバイスが実用化され、注目を集めています。我が国が掲げる2050年カーボンニュートラルを実現するためには、小型、高効率のSiCインバータ装置を電車やEVへ搭載し、電力消費を抑えることが重要と考えられます。しかし、現在市販されているSiC MOSFETの性能は、材料の物性値から期待される値に比べてはるかに低く、本来の性能を発揮しきれていません。特に、SiC MOSFETにおいては、チャネル移動度が低いという問題がありますが、ホール効果測定やデバイスシミュレーションなどを用いることで、その原因を究明します。

device Fabrication

SiCパワーMOSFETにはSiO2/SiC界面構造が存在していますが、その界面部分に高密度の欠陥(界面準位)が発生してしまうため、電子移動度が極端に低くなり、損失が増大してしまうという問題があります。これまでに我々は、SiO2/SiC構造にリンやボロンなどの異原子を導入することで界面準位を低減でき、電子移動度を大幅に改善できることを明らかにしてきましたが、さらなる改善が必要です。そこで、新たな元素をSiO2/SiC構造に導入するプロセスによりデバイス試作を行い、高性能SiC MOSFETの実証を目指します。

我々の研究室では、SiC MOSキャパシタという半導体デバイスを作製する設備や電気特性評価装置を有しており、新規熱酸化手法により新しいデバイスを作製し、その特性を向上するためのプロセス開発を行っています。また、外部機関と協力して、オリジナルなSiC MOSFETの作製も試みています。

Device Reliability

SiCパワーMOSFETは2010年以降実用化され、普及が進んでいますが、市販されているデバイスにおいても、ゲートに負の電圧を加えた際にしきい値電圧が変動するという問題があります。この現象を正確に測定する技術がこれまでありませんでしたが、当研究室ではOn-the-fly法などの有効な評価手法を開発しています。これらの手法を駆使して、特性変動の原因となっている欠陥を解析し、SiC MOSFETの特性変動を予測するのに役立つ物理モデルを構築します。独自の測定系を構築することで、他グループが報告していない物理現象を捉えることを目指します。